軟膏とクリームの違いを書いてみたいと思います。
ここで一つ言葉を区別しておきたいのですが、軟膏は塗り薬の代名詞として使われることがあります。
食事のことをご飯というように、ご飯はお米を炊いたものですが、食事の代名詞ともなっているということです。軟膏は軟膏とクリームを合わせた塗り薬を表す代名詞として使われることもありますが、我々皮膚科医は軟膏とクリームを明確に分けて軟膏という言葉を使っています。軟膏は軟膏、クリームはクリーム、塗り薬は塗り薬です。
ローションは液体だから別物とわかりますが、軟膏とクリームの違いはわかりにくいと思いますので、その違いを書いてみたいと思います。
(日本皮膚科学会の「軟膏とクリームの違い」はこちら。)
軟膏 |
クリーム |
親油性基剤(油に溶ける) 水には溶けない |
親水性基剤(水に溶ける) 油には溶けない |
|
|
一言でわかりやすく言うと基材(薬を溶かす成分)が油か水かです。
軟膏は親油性基剤(油との相性が良く油に溶ける)、クリームは親水性基剤(水との相性が良く水に溶ける)の中に薬剤が混ぜてあります。(正確にはクリームには親油性基材の中に親水性薬剤を混ぜてあるものもありますが割愛します。)
つまり、軟膏は油なのでベッタリ。クリームは水と仲良しでサラサラです。
これは塗り心地に直結します。
軟膏はべたべたするし、クリームはサラサラです。
塗り心地が良いのは圧倒的にクリームに軍配が上がります。
それでも軟膏を使うことが多いのは、軟膏のほうが一般的に効果が出やすいからです。
その理由はその塗り心地の悪さの元であるべたべた感にあります。
べたべたするということは、その場にとどまっているということを表しています。蒸発しにくく長く皮膚にとどまります。そのため長く皮膚に作用するため、薬の効果が期待できます。
一方クリームは塗り心地は良いものの、サラサラしているため、少し擦れるとその場にとどまらずすぐに取れてしまいます。
もうひとつ皮膚科医が軟膏を好む理由は適応範囲の広さにあります。
引っ掻き傷のある部位にクリームが処方されて、飛び上がるほど痛かったことはありませんか?
そうなんです、引っ掻き傷にクリームは適応がないんです。
さきほど記載しましたように、クリームは親水性なのですが、引っ掻き傷の部位も浸出液を伴う局面です。ここで薬が親水性だと都合がよいように思えますが、薬剤が浸出液に溶け込んでしまうため痛みを生じます。一方軟膏は油ですから薬が浸出液に溶け込むことがないため、痛みを生じることは稀です。(軟膏基剤でも酸性の薬剤、フルメ〇などでは軟膏でも痛みを生じる場合があります)
軟膏であれば、基剤としてはどのような局面でも使用できるというメリットがあります。(当然薬効・薬の強さは選ぶべきですが)
最後にもう一点。
軟膏の保湿能力が優れていることによります。
軟膏は油なので蒸発しにくいのですが、クリームは水を含んでいるので洗濯物が乾くように蒸発してしまいます。そのため軟膏のほうが保湿能力が優れるということです。
以上の点より、私は圧倒的に軟膏を使います。
10:1か20対1くらい、軟膏が多いです。(クリームを出す場合もあるので0ではありませんけどね)
ではクリームを好んで使う場合を記載して終わります。
それはステロイドの効果が強すぎてニキビができてしまった場合です。
ステロイドがその場にとどまって、効果が出すぎたためニキビを生じますので、クリーム基剤にすればニキビが消える場合が多いです。
(軟膏が毛穴を詰まらせるため、ニキビを生じやすいという説もあります)
そのためニキビができそうな場合や、既にニキビができている皮疹には少し弱いステロイドに変更し、更にクリーム基剤を使用することが多いです。
他には皮膚がガサガサしていない場合や患者さんから要望があった場合には、クリームを使うことがあります。ガサガサしていないということは皮膚の炎症が比較的軽いことを意味するので、クリーム基材でも十分効くことが多いからです。
私は基本的に軟膏を処方しますが、塗り心地が耐えられないなどクリーム基材をご希望の場合にはお気軽にご相談ください。
あくまでも橋本クリニックの私の処方ですので、詳しくは主治医の先生とご相談ください。